本当に上手い騎手ランキング【統計による騎手の能力の測定】

はじめに

この記事では、騎手リーディングの問題点を解決するために統計(重回帰分析・固定効果モデル)を用い、中央競馬2021年のデータから、それぞれの騎手が真に勝利に貢献した度合いを測定し、ランキングを作成しました。

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騎手リーディングの問題点

一般的に、競馬において騎手の能力を示す指標として騎手リーディングが利用されています。騎手リーディングでは、シーズン毎の騎手の勝利数によってランキングが作成されます。

リーディングは騎手の能力を示す単純な指標としては有用ですが、騎手が乗る馬によってリーディングは大きく影響を受けます。

競馬では、「馬が7割、騎手が3割」という言葉があり、騎手の能力はレースの勝敗の3割しか影響を与えないと言われています。

すなわち、人気のある騎手がその能力を見込まれ能力の高い馬への騎乗を任される傾向があるならば、その騎手の勝利数の多さは騎乗する馬の能力の平均的な能力の高さに起因するものであり、本当にその騎手の能力を表すかどうかは分かりません。

したがって、真の騎手の能力を測定するためには騎乗する馬の能力を一定にした上で、その騎手がどれほどレースの勝敗に貢献しているかを測定する必要があります。

騎手の能力の測定

測定方法

この分析において騎手の能力は「騎乗した馬の能力に関係なく、レースの単勝もしくは複勝に貢献する騎手の能力」と定義します。

騎手リーディングの問題点でも説明した通り、この騎手の能力を測定するためには、騎乗する馬の能力を一定(馬の能力差がない)にしたうえで、騎手の勝敗への貢献度を測定する必要があります。

統計(重回帰分析)には、固定効果モデルというものがあります。この固定効果とは、ここでは競走馬の能力を示すものであり、固定効果モデルではこの競走馬の能力を一定(書く競走馬の能力に差がない)としたうえで、騎手の能力を測定することがある程度可能となります。

できれば、各騎手が何%単勝もしくは複勝に貢献したのかを具体的な数字で出したかったのですが、計算が複雑になりすぎるようで現在の統計ソフトでは計算しきれなかったため、勝利への貢献度を偏差値(50が平均)で算出しています。

(ここは具体的な統計手法を説明している箇所なので、読み飛ばしてももらっても構いません)
具体的には、従属変数をそれぞれのレースで1着(もしくは3着以内)であれば1を取るダミー変数とした上で、説明変数には競走馬の固定効果をモデルに組み込みます。そして、それぞれの騎手を示すダミー変数をモデルに含め、回帰することでその係数を推定します。この係数が大きいほど、(騎乗する競走馬の能力を一定とした場合)、その騎手が1着(もしくは3着以内)に入ることに貢献した度合いが大きいことを意味します。

ランキングの見方

数値は、各馬の能力の影響を取り除いたうえでの単勝(単勝貢献度)もしくは複勝(複勝貢献度)に対する各騎手の貢献度を示しています。つまり能力の低い馬に騎乗して勝利すると貢献度が高くなります

偏差値で表しているため、数値が大きいほどその騎手の能力によって勝利に貢献していることを意味しており、50が平均的な勝利貢献度となります。総合偏差値は単勝貢献度と複勝貢献度を総合的に勘案して出しています。ランキングは総合貢献度が高い順となっています。

ランキングの対象は2021年に100レース以上出走している現役騎手です。

騎手ランキング

それではランキングを見てみましょう。

それでは、馬の能力と関係無しに本当に上手い騎手トップ10をそれぞれ見ていきましょう。

1位:川田将雅騎手

勝利貢献度1位は2021年JRA賞最高勝率騎手の川田騎手(騎手リーディング2位)となりました。総合偏差値は71.3です。

川田騎手は勝率を上げるために、強い馬を選んで騎乗しているイメージがあったのですが(私の勝手なイメージです)、比較的弱い馬でも上手く騎乗して勝ちを積み重ねているようです。その結果が回収率(単勝99%、複勝81%)にも現れていると言えます。

ちなみに、菊花賞のレッドジェネシスの騎乗は私はまだ許していません。

2位:クリストフ・ルメール騎手

2位は2021年MVJ・最多勝利・最多賞金の三冠ジョッキーのルメール騎手(騎手リーディング1位)で総合偏差値70.6です。

騎手リーディングでは1位で、圧倒的な信頼感のあるルメール騎手ですが、勝率や回収率では川田騎手に負けています。また単勝回収率は71%と低く、実力のある馬に乗っても結構飛んでいるようです(そもそも、ルメールだから買うって人が多く、過剰人気になりがちなのもあるのでしょう)。その点では、ルメールだからと過信は禁物です。

3位:福山祐一騎手

3位は総合偏差値63.9の「先生」こと福永騎手(リーディング4位)でした。

私は福永先生が現役騎手の中で1番騎乗が上手いと思っているのですが、1位2位とは総合偏差値が大きく開いており、上位二人は別格という感じですね。

勝率でも3位の成績なのですが、単勝回収率が67%とかなり低いのが玉に瑕です。

4位:吉田隼人騎手

総合偏差値4位は60.9で吉田隼人騎手(リーディング8位)です。

リーディング8位から大きく順位を上げています。勝率はそれほど高くないのですが、単勝回収率が84%とそこそこ高くなっています。たまに穴馬で好走しているのでしょう。吉田騎手が人気の低い馬に乗っている際には要注意ですね。

吉田隼人騎手は過去4回フェアプレー賞を受賞している点が好印象ですね。

5位:松山弘平騎手

5位は松山弘平騎手(リーディング3位)で総合偏差値59.2となっています。

松山騎手は2021年に891レース騎乗しており、JRAの最多騎乗となっています。その分勝利数が多くなっており、リーディング3位ですが、勝利貢献度ランキングでは5位と順位を落とす形になっています。

ちなみに、2021年9月19日にJRA通算10,000回騎乗を達成しており、デビューから12年6ヶ月19日という記録は史上最速かつ最年少です。

6位:武豊騎手

6位は競馬界の大スター武豊騎手(リーディング12位)で、総合偏差値58.6です。

全盛期ほどではないですが、それでもその実力は維持しています。複勝率では4位となっており、安定感がある感じです。ただし、単勝回収率は68%とやや低め。勝ち負けというよりも複勝系の馬券で勝負したい騎手と言えます。

武豊騎手はリーディングジョッキーを18回獲得し、歴代最多記録となっています。

7位:岩田望来騎手

7位は重賞勝てないで注目を集める岩田望来騎手(リーディング6位)。総合偏差値は57.5となっています。

重賞は勝てないのですが、平場を含めて複勝貢献度が高くランキングは高くなっています。実力はあるはずのですが、ここまで重賞勝てないとなると運も悪いのかなと思います。

岩田騎手は単勝貢献度54.9に対して複勝貢献度57.5とやや偏りがあり、複勝圏内に来るのが上手い騎手といえるでしょう。同様の傾向は川田騎手とルメール騎手にも見られるため、重賞で一度勝利を飾ったらさらに化ける可能性があるのではないでしょうか。

重賞は勝負したくないですが、平馬においては結構頼りになる騎手であると言えます。

8位:ミルコ・デムーロ騎手

8位はリーディング13位から順位を上げたミルコ・デムーロ騎手です。総合偏差値は57.4となっています。

デムーロ騎手の最盛期はJRA賞や優秀騎手賞を取っていた2015~2018年であり、ここ3年はやや成績が振るいませんが、それでも8位にランクインしています。

回収率が高いことから、穴馬を勝利させる能力が強いのでしょう。期待できる穴馬にデムーロ騎手が乗っていたら注目です。

9位:田辺弘信騎手

こちらもリーディングは15位ながら勝利貢献度ランキングでは9位となっています。総合偏差値は57.2です。

岩田騎手と同様に、複勝貢献度が高い騎手となっています。2021年には史上40人目となるJRA通算1,000章を達成しました。田辺騎手は2014・2018・2020年にフェアプレー賞を取っており、好感が持てますね。

10位:菱田裕二騎手

10位には中堅騎手の菱田裕二騎手(リーディング37位)がランクインです。騎手リーディングでは37位ながら、勝利貢献度ランキングでは大きく順位を上げています。騎手リーディングの順位が低いのはレース数がやや少なく、また勝率が高くないことが要因であると思われます。

しかしながら、単勝回収率は94%、複勝回収率は89%と非常に高い回収率を示しており、能力の低い馬に乗ることが多いものの要所要所でしっかりと勝利していることが窺えます。レースで見かけたら是非注目すべき騎手といえるでしょう。

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おわりに

いかがだったでしょうか。私は、上記の勝利貢献度ランキングを見て、岩田騎手や菱田騎手をもっと評価しないといけないなと思いました。

ちなみに、2021年に最も活躍した騎手と言える横山武史騎手(リーディング5位)は11位となっています。回収率も低く、その注目度の高さからルメール騎手と同様にやや過剰人気気味となっているようです。

この記事では、ランキングトップ10のみを詳しく見ていきましたが、騎手リーディングを見比べると他にも新たな発見があるはずです。

このランキング上位の騎手は能力の劣る馬に乗ってもしっかりと勝利に結びつけることができる騎手であると言えるので、是非今後の予想の参考にしていただけましたら幸いです。

このブログでは、コース傾向分析において騎手にも着目しています。是非、予想される際合わせてご参照いただけますと幸いです。

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