日本の中央競馬は芝のレースが中心であり、重賞は芝コースが多く、賞金も高いため、とくに将来多くの賞金を稼ぐことを期待されている良血馬はデビューから芝中心でレースが組まれます。
芝とダートでは競走馬に求められる能力が違うため、もちろん適正もあります。したがって、芝→ダート替わりやダート→芝替わりでレースに挑む競走馬は過去走の結果が必ずしも参考にならないため、オッズに歪みが生じ期待値をとる機会であると言えるでしょう。
2021年12月4日開催のチャンピオンズカップ(G1)では、白毛のスターホース・ソダシが初ダートに挑戦し、父馬クロフネの再来なるか?と注目を集めています。ソダシは初挑戦のダートで勝利を飾ることができるのでしょうか?
このコラムでは、2010年1月から2021年11月までの16年間のデータをもとに、芝・ダート替わりの馬の成績を統計的に分析することによってこの問いを考えてみましょう。
結論としては、
- 芝・ダート替わりの馬は成績が悪い。
- とくに、重賞の場合は回収率も低いため危険。
- 芝・ダート初挑戦の場合にも上位の傾向は同じ。
- 芝・ダート適正を期待されての転向の場合、ダート→芝の場合は回収率が高く、芝→ダートの場合は回収率が低くなる傾向があるかもしれない。
- クロフネ産駒はダート適性がとくに高い分けではない。
- 全クラスの平均値では、クロフネ産駒初ダート挑戦時の単勝回収率は優秀。
- ただし、クロフネ産駒の初ダート挑戦が重賞の場合は苦戦している。
ということがわかりました。それでは、分析を見てみましょう。
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芝・ダートレースの基礎知識
まずは、芝・ダートレースの基礎知識を確認していきましょう。そんなのわかっているよという中級者以上の方は読み飛ばしてください。
それぞれの主な特徴は下記の通りです。
- タイムが速い
- パワー・スタミナよりもスピードが重要
- 雨によって馬場が重・不良になると滑るためタイムが遅くなる
- 芝が傷むため、各競馬場の開幕週と最終週でタイムに差がでる
- 芝に比べてタイムが遅くなる傾向がある
- スピードよりもパワー・スタミナが要求される
- 雨が降ると砂が固まってタイムが速くなる
- スピードが出にくかったり、後発の馬は前を走る馬が蹴り上げた砂を被るため先行馬が残りやすい
芝と砂浜を走ることを思い浮かべてもらうと分かりやすいですが、砂浜は走りにくく、また疲れやすいかと思います。競馬においても同様のことが当てはまり、芝に比べてダートの方がタイムが遅くなり、パワー・スタミナが求められます。
ちなみに、ダートコースには、スタート直後が芝で、その後ダートに変わるコースが多くあります。そうしたコースでは、外枠ほど芝部分の距離が長くなっており、外枠ほど芝を長く走ることができます。芝では一般的に大外の枠が不利だと言われますが、このコースの特徴から、ダートレースでスタート後の芝部分を長く走れる外枠の馬ほど平均的に成績がいいことがデータ上でも確認できます(図1)。
芝コースは内枠ほど単勝率が高くなっており、ダートコースは外枠ほど単勝率が高くなっております。
芝・ダート替わり馬の成績
それでは、本題の芝・ダート替わり馬の成績を見ていきましょう。
全芝・ダート替わり馬の成績
まずは、初挑戦かそうでないかを区別せずに、前走のコースと比較で分類してみましょう(表1)
表1 全芝・ダート替わり馬の成績(全レース)
単勝率と複勝率を見てみると、前走芝で今走ダートの「芝→ダート」馬や、「ダート→芝」馬の成績は、芝・ダート替わりをしていない馬に比べて成績が落ちています。
「芝→ダート」馬については、前述の通り、日本の中央競馬は芝がメインであるため、期待されている競走馬は基本的にはまず芝のレースを中心に出走します。しかしながら、芝での成績が振るわず、それならばダートでは通用するのではないのかとダート替えすることが多いです。しかしながら、この結果からはダートに替えたとしても十分な実力をみたしていないことが多いように思われます。
勝率は落ちるものの、回収率についてもベンチマークとなる「ダート→ダート」に比べて低くなっており、過大人気になっていることがうかがえます。
また、「ダート→芝」馬については、一般的には力のいるダートから、軽い芝にスイッチすることで楽に走ってもらい好走を促すことを意図していることが多いです。しかしながら、「芝→ダート」馬よりも成績は悪くなっており、期待が裏切られる結果になっております。これは、大まかに言えば能力の高い馬が芝、そうでない馬がダートという棲み分けになっているので、ダート→芝は基本的に格上との勝負となることが理由でしょう。
回収率を見ると、単勝回収率は他の条件の馬とほぼ同じですが、複勝回収率は79.8%と明らかに悪くなっております。この馬ならば芝でも通用すると期待されて芝レースに出走した分、オッズが過大評価になっていることが想定されます。
次に、重賞における成績を見てみましょう(表2)重賞では、先ほどみた結果がさらに強くでています。芝・ダート替わりを行った馬はとくに勝率が悪くなっており、回収率もオッズにおける割引をカバー出来ないほど低くなっています。基本的に重賞においては前走と芝・ダートの区分が異なる馬は馬券において避けた方が良いでしょう。
表2 全芝・ダート替わり馬の成績(重賞)
芝・ダート初挑戦馬の成績
それでは、芝からダート初挑戦、ダートから芝初挑戦の馬に絞って成績を見ていきます。こちらの方が、参考に出来る過去走レースがない分、回収率がバラつき、期待値を稼ぎやすくなることが想定されます。
まずは、全レースの芝・ダート初挑戦馬の成績です(表3)。ここでもやはり芝・ダート替わり馬の成績は悪いですが、「ダート→芝初挑戦」馬の単勝回収率は78.6%と比較的高くなっています。中には芝・ダート替わりによって人気はなくても好走する馬が一定数存在することがうかがえます。
表3 芝・ダート初挑戦馬の成績(全レース)
次に、重賞における芝・ダート初挑戦馬の成績です(表3)。勝率・回収率はさらに低くなっています。ここまで来ると馬券においては基本的に避けた方が無難です。
表4 芝・ダート初挑戦馬の成績(重賞)
サンプル数が非常に少ないため,参考程度ではありますがG1で芝・ダート初挑戦となった馬の成績です(表4)。やはり同様に低いですね。とくに、「芝→ダート」馬は17頭中一頭も馬券内に入れていません。ソダシ危うしです。
表4 芝・ダート初挑戦馬の成績(G1)
芝・ダート適正を期待されての転向時の成績は?
芝・ダート転向の主な理由を「芝で勝てないからダート、もしくは活躍する可能性に掛けてのダートから芝」の消極的な理由と「芝・ダート適正を見込まれて」の積極的な理由の2つがあるとすると、後者の方が初芝・ダート替わりだとしても勝ち負けする可能性が高いと考えられます。
各陣営が何を意図して芝・ダート替わりをさせるのかということはデータとして残っていませんが、積極的な理由の場合は転向以前にもある程度の好成績を残していると考えられます。そこで、初芝・ダート挑戦前の1着回数(勝利数)ごとにサンプルを分け成績を確認してみましょう。
上記の仮説が正しいとするならば、勝ち数が多いほど(消極的な理由で転向している分けではないと考えられるので)、初芝・ダートの成績が良くなる傾向が見られるはずです。
まずは、初芝挑戦の前走までの勝利数毎の成績です(表5)。勝利数が増えるにしたがって出走数が減り、成績がブレるため明確な傾向は見いだせませんが、3・4勝後の単勝回収率、5・6勝後の複勝回収率が100%を大きく超えており、狙い目だと言えます(7勝後の転向馬が馬券内に入っていないことは残念ですが)。
表5 前走までの勝利数別・ダート→芝初挑戦馬の成績
つづいて、芝→ダート初挑戦馬の成績です(表6)。こちらも明確な傾向は見いだせません。とくに複勝率について、勝利数が多くなるにしたがって低くなっており、ダート適正を期待されてのダート転向馬はやや危険かもしれません。
表6 前走までの勝利数別・芝→ダート初挑戦馬の成績
上記の分析からは、芝・ダート替わりの前走までの成績はあまり関係なく、成績が良い状態で転向する馬は、ダート→芝の場合は余り注目されないため比較的回収率が高く、芝→ダートの場合は(もともと期待されていた良血馬が多いことから)注目されて回収率が低くなっていることが想定されます。
クロフネ産駒のダート成績は?
ソダシはクロフネ産駒であり、クロフネは2021年の神戸新聞杯(G2)で3着になった後、それまでは芝コースに出走していましたが、武蔵野S(G3)で初ダート挑戦で後続を引き離し1着、続くジャパンカップ(G1)にて2着と9馬身差を付けて圧勝、最後にダート適正の高さを示した名馬でした。2001年の最優秀ダートホースにも選ばれています。
今回のソダシの場合、一般的な「芝で勝てないからダート」というよりも、ダート適正のあるクロフネ産駒であることを見込まれての勝負だと思われます。この場合、これまでの分析から判明した「重賞でダート初挑戦は避けた方が良い」という主張が当てはまらないかもしれません。それでは、クロフネ産駒のダート成績はどのようになっているのでしょうか。
まずは芝・ダート替わり関係なく、クロフネ産駒の芝・ダート成績を確認してみましょう(表5・6)。クロフネ産駒は全レースの場合、ダートの成績がやや高いですが、重賞の場合は芝での成績の方がやや高い傾向があります。とくに、ダートの重賞・G1の勝率は苦戦しています。また、回収率は全レースも含めて低くなっています。種牡馬クロフネのダートの印象が強く、ダートのクロフネ産駒は過大人気になっていることが考えられます。
表5 クロフネ産駒のダート成績
表7 クロフネ産駒の芝成績
次に、クロフネ産駒の芝→ダート初挑戦時の成績(表6)です。流石にG1でダート初挑戦となる馬はいませんでした。全クラスの成績は高くなっています。とくに、単勝回収率は100.6%となっており、狙い目であるといえます。
表7 クロフネ産駒の芝→ダート初挑戦時の成績
重賞でダート初挑戦馬は3頭しかいませんが、いずれも馬券内に入っておらず苦戦しています。なお、重賞でダート初挑戦だったクロフネ産駒は下記の3等となり、それぞれ12着、13着、7着と厳しい結果となっています。
- 武蔵野S(G3)エメラルファイト:12着
- プロキオ(G3)クラリティスカイ:13着
- 武蔵野S(G3)トリップ:7着(ただし、それ以前に地方競馬のジャパンダートダービー(Jpn1)で1着)
クロフネ産駒のダート成績は特に良いと言うわけではなく、特別ダート特性があるとは言えないでしょう。また、特に重賞では苦戦しています。一方で、ダート初出走時の単勝回収率は高いため、穴馬として狙ってみるのも面白いかもしれません。
まとめ:芝・ダート替わり馬で回収率を上げるためには
以上の分析をまとめると下記のようになります。
- 芝・ダート替わりの馬は成績が悪い。
- とくに、重賞の場合は回収率も低いため危険。
- 芝・ダート初挑戦の場合にも上位の傾向は同じ。
- 芝・ダート適正を期待されての転向の場合、ダート→芝の場合は回収率が高く、芝→ダートの場合は回収率が低くなる傾向があるかもしれない。
- クロフネ産駒はダート適性がとくに高い分けではない。
- 全クラスの平均値では、クロフネ産駒初ダート挑戦時の単勝回収率は優秀
- ただし、クロフネ産駒の初ダート挑戦が重賞の場合は苦戦している。
芝・ダート替わり馬の過去走の成績は参考にならないことが多いため、血統や追込み、馬体などの過去走成績ではわからない芝・ダートへの適正を見極めるための手法が必要だと思います。
また、例えば「芝→ダート」への転向の場合、「芝では通用しなかったからダートなら」のような消極的な理由だと基本的に成績は悪く、少なくとも回収率アップに結びつきません。過去成績にとらわれない予想理論を一つでも身につけたいですね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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